�ｹ石如作品（書法・篆刻）の成立と変遷

　�ｹ石如作品の書法篆刻の成立と変遷を、伝記資料とともに検討を加え、制作年代を五期に分類して考察を加える。

はじめに
　�ｹ石如の活躍を知るうえでの文献資料には、『清史稿』５０８があり、『國朝先正事略』巻４４、『國朝書畫家筆録』巻２、『國朝書人輯畧』巻６などに伝記を載せているが、いずれも�ｹ石如と同時期に活躍した人物たちによる孫雲桂『完白山人傳』、呉育『�ｹ石如傳』、包世臣『完白山人傳』、方履籛『�ｹ完白先生墓表』、李兆洛『石如�ｹ君墓志銘』、楊沂孫『完白山民傳』にもとづいたものである。そこで、ここでは原資料ともいうべき孫雲桂『完白山人傳』、呉育『�ｹ石如傳』、包世臣『完白山人傳』、方履籛『�ｹ完白先生墓表』、李兆洛『石如�ｹ君墓志銘』、楊沂孫『完白山民傳』の伝記資料を検討し、編年できる記述について本篇の年譜の骨格とする。
　中国の書画には古来より作者名を記すほかに、その完成年（時には月日・時刻も含まれる。）、制作場所・制作理由・作品の依頼者などにいたるまで記す場合もある。これらをとくに款識（ただしくは落成款識というもので、これを略して款識という。）と呼ばれている。作品が完成した後に書かれ、制作者自身による作品証明ともいうべきもので、作品自体の鑑賞に加えて、款識を読むことは、作品を理解するうえで欠かすことのできないものである。中国文人の三絶は、詩・書・画を極めることが理想とされるが、この代表的な存在は文徴明などが挙げられよう。詩をつくり書をなし絵をかく、いずれも大変な教養と学問と書の鍛錬が、文人になるための必須条件である。中国の政治においては科挙が高級政府官僚の登用試験であったが、この科挙こそが何よりも教養と学問そして書の上手を要求した。書の上手が合格の条件とは、いぶかしいことであるが、事実、董其昌は成績優秀で科挙試験に主席で合格したものの、字が下手であったために次席に落とされている。このような環境は、やがて文人イコ―ル高級政府官僚という図式が生じた。そうして育まれた中国文化は、教養学問を相乗させて、より高度な文化形成が行なわれることになるのである。その一端が詩・書・画であり、陶器であり、工芸の品々である。これらはいきおい芸術と呼ばれる次元に昇華されていくことになるのである。�ｹ石如の作品は、書と篆刻に代表される。篆刻は詩・書・画にさらに加えられた、刻印の作業である。はじめ篆刻は「君子は、小技をなさず。」として、大人がするものではないと敬遠されたが、元明以後とくに清以後の文人たちに広く好まれ、中国最後の文人と称される呉昌碩は詩・書・画・篆刻の四絶を誇ったといわれる。前述の年譜に、書・篆刻の款識を随時加えてより実証と立体的な年譜の再編を試み、�ｹ石如の実像を改めて考えてみようと思う。
　採用した文献の記載紀年や記載内容、また成立情況から、それぞれ孫雲桂『完白山人傳』は、乾隆５７年（１７９２）に書かれた。呉育『�ｹ石如傳』は、嘉慶７年（１８０２）以後の数年に書かれた。包世臣『完白山人傳』は、嘉慶１１年（１８０６）に書かれた。方履籛　『�ｹ完白先生墓表』は、嘉慶２０年（１８１５）に書かれた。李兆洛『石如�ｹ君墓志銘』は、道光５年（１８２５）以後の数年に書かれた。楊沂孫『完白山民傳』は、光緒７年（１８８１）以前に書かれたものと思われる。
　部分的に、穆孝天・許佳瓊『�ｹ石如年譜』（『�ｹ石如研究資料』所収　１９８８　人民美術出版社）を援用した。

�ｹ石如とその時代
　�ｹ石如は、清朝（１６６２〜１９９１）における乾隆嘉慶の間に活躍した。乾隆嘉慶は、１７３６年から１８２０年の約八十年である。清朝は、おおきく康煕・雍正期（１６６２〜１７３５）、乾隆・嘉慶期、道光以後（１８２１〜）におおきく分類することができる。この第二期にあたり、祖父である康煕帝そして父である雍正帝が創始継承した王朝の隆盛を、満身に享受したのが清朝の第三の皇帝である乾隆帝であった。
　乾隆帝、姓は愛新覺羅、名は弘暦という。１７３６年に二十五歳で即位し、１７９５年に八十五歳で嘉慶帝に帝位を譲るまで、六十年にわたって皇帝として君臨した。西洋では王侯貴族たちが華やかに最後の宮廷生活を謳歌し、日本では徳川八代将軍吉宗（１７１６〜１７４５）が享保の改革を終える頃であった。乾隆嘉慶期の次ぎの道光以後は、西洋では、王侯貴族の時代は終焉となり、産業革命による近代を迎え民衆の革命の嵐が吹き荒れる頃を、日本でも欧米諸国の外国船が見え隠れし近代の足音が遠くに、しかし確実に聞こえる頃を迎えるのであった。
このような世界の趨勢は、中国にも例外なく訪れ、阿片の蔓延による経済問題が政治問題に発展し欧米列強との対立・戦争へと発展していくことになる。乾隆嘉慶期は、上述のような世界的な歴史の転換を迎える以前の、もっとも国力の充実した八十年間であった。
　乾隆帝の治世の中で、とくに記すべき政治項目として辺境の国域への拡大が挙げられる。現在の中華人民共和国に匹敵する範途を領地としたことが挙げられる。特筆すべきは、知識人に対する負の政策である「文字の獄」の惹起と「禁書」の励行であり、正の政策である『四庫全書』や『大清會典』の編纂である。「文字の獄」は、満州人の王朝である清朝への漢人の誹謗や中傷に対する検閲の一種で、文章の字句の使用にまで及び、著者のみならず一族郎等まで死罪が加される苛烈なものである。康煕・雍正・乾隆期に実施され、ことに乾隆期は厳重で、漢人の知識人をつねに震撼させたのである。また「禁書」は、「文字の獄」と同じく清朝への誹謗や中傷に対する検閲で、杉村勇造氏の『乾隆皇帝』（二玄社）によれば「禁書」になった文献は１８７９種を数え、冊数にして数万冊に及ぶという。このような状況の中で乾隆８年（１７４３）�ｹ石如は生まれた。

�ｹ石如の誕生
　�ｹ石如は生まれ育った「乾嘉期」と呼ばれる期間は清朝考証学が完成する期間である。とくに「乾嘉の学」と呼ばれている。考証学は、古典籍の原義を究明するために、文献資料よりさらにさかのぼり歴史資料である古器物を研究対象にするようになる。これらの古器物は「金石文」と呼び、青銅器銘文や石銘文を研究する。いわゆる直接に歴史資料を研究する実証的な「実事求是」の理念を展開してゆく。実証を主義とする学風は訓古学、音韻学、金石学、校勘学という学問分野を形成した。
　中国書法史における書風の形成は、篆書、隷書、草書、楷書、行書の書体が完成した王羲之（３０３〜３７９）以後は、その時代の気質を強く反映して展開されてきたが、乾隆・嘉慶期も例外ではなく、学者・文人を問わず前述の考証学の影響を直接にまた間接に受け、「ヨ―ロッパの社交会では、着飾った婦人達が彩りを添え、東洋では錆びた青銅器がその役割を果たしている。」という言葉は、まさにこの乾隆・嘉慶期以後の清朝の気質を表現しているのである。
　�ｹ石如の姓号は、包世臣『完白山人傳』に詳しく「字は石如、名は琰、集賢関は皖公山下にあたるので別号を完白山人といった。」とある。
　出生は、穆孝天、許佳瓊『研究資料』に詳しく「乾隆８年（１７４３年）�ｹ石如は、陰暦４月２９日（陽暦５月２２日）安徽省懐寧県集賢関外代龍山西白麟坂に生れる。」とある。
　また世系については李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』に詳しく「その祖先は、國（�ｹは周代の国名、現在の河南省�ｹ縣）をもって氏とした。高密侯であった�ｹ禹は、漢の宗臣であった。」こののちは李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』に詳しく「のちに江西鄱陽（江西省）より安徽省懐寧県に遷り、石如の祖父の�ｹ君瑞に至って十三世にあたる。」とある。
　幼少の頃は穆孝天、許佳瓊『研究資料』に詳しく「�ｹ一枝にしたがって、塾中にあって読書した。弟璹が生まれると家族が増え家計が困難になったため学問を諦め、村の子供たちに随ってたきぎを集めた。」これらの記述と同じ内容は、李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』にも「年十三四、心窃窃として書を喜ぶ。」とあり、また方履籛『�ｹ完白先生墓表』にも「おさなくして孤悴にかかる。いまだ誦習をもっぱらにせず。梠を採りて市に入り、荊を編みて床をなす。」とあり、また包世臣『完白山人傳』にも「幼くして僻郷に生まれ、聞見するところがすくなかった。刻石を好み、漢人の印篆を倣ってたいへん上手くした。」とある。これらの内容を総合すると、決して裕福とはいえない家庭に生れ育ち、学問を好むが、それを許さない環境であったことがわかる。ただ包世臣『完白山人傳』のみが、刻印を好んだこと、漢人の印篆を倣ってたいへん上手くしたことを触れていることは�ｹ石如の初期作品が篆刻に占められることを考えるうえで注目に値する。こののち乾隆４３年（１７７８）の３６歳に至るまで具体的な伝記資料および作品は見当たらない。

第一期作品　�ｹ石如３６歳から４１歳まで
　�ｹ石如の作品を調べると３６歳がもっとも早いが、これ以後の４１歳までは作例が篆刻作品である。書法としては篆書を２例確認するのみである。この期間を篆刻に専念した期間として検討を加える。
　�ｹ石如の初期作品は、篆刻作品である。乾隆４３年（１７７８）から乾隆５３年（１７８８）までの作品は、制作年の判明している作品が２４件ある。このうち書法作品が僅かに６件なのに対して篆刻作品は実に１８件を数える。さきほどの包世臣『完白山人傳』に記述される篆刻を好んだことを、作品例が証明している。
　現在確認できる�ｹ石如最初の作品例は、乾隆４３年１０月、石如３６歳の時に篆刻作品『太羮玄酒』『聊浮遊以逍遥』（兩面印）を刻して、勉堂翁に持贈した。（�ｂR６―１）である。これは実は甘暘の模刻作品であるが、実際に印を比べてみると相当に石如の工夫が強いもので、ただ真似たものではないことが容易に見取ることができる。ある意味では、制作の欲求を名人の印に見出し触発されたもので、かなり創作に近いとも言える。言葉を換えて言えば、元の印を遥かに超えた傑作である。その様子は、甘暘の『太羮玄酒』印は、整斉の態はなしているものの、線の響き合いに乏しい。これにたいして石如の印は、線の伸びやかな質に、全体から溢れる充実感は、甘暘と比べものにならないほど生気に満ちている。また、『聊浮遊以逍遥』印は、甘暘の印が文字の意匠を計ることに終止しているのにたいして、石如の印は線の末端の衝突を避け、空間に余韻を残し、全体の調和を計っている、これもまた甘暘と比べものにならないほど全体に自然な姿をしている。

　乾隆４５年（１７８０）、３８歳。包世臣『完白山人傳』には「壽州に到る。梁巘（亳の人、まえの巴東の知県）は、壽春書院の主講であった。石如は、院中の諸生のために刻印して、また小篆をもって諸生の扇に書いた。」とある。ここでは刻印に加えて、はじめて篆書作品について触れている。実際の篆書作品例が翌年の乾隆４６年（１７８１）、３９歳に２作品が残っている。乾隆４６年２月２日に立幅（篆書　臨〈李陽冰『周易』上經、謙〉「天道虧盈而……」）を書く。（�ｂR９―２）があり、５月に立幅（篆書『周易』説卦傳　「昔者聖人之……」）を書く。（�ｂR９―２）がある。このことは包世臣の『完白山人傳』を証明するものである。
　また続けて包世臣『完白山人傳』には「梁巘の推薦により梅鏐の家に到る。六カ月滞在した。」とある。梅鏐との交流を記したものだが、実際の篆刻作品例が乾隆４５年５月に梅鏐のために印『半千閣』を刻す。（�ｂR８―１）があり、夏に梅鏐のために印『清素堂』を刻す。（�ｂR８―２）がある。このことは包世臣の『完白山人傳』を証明するものである。
　また続けて包世臣『完白山人傳』には「『石鼓文』、『嶧山碑』、『泰山刻石』、『漢開母石闕』、『燉煌太守碑』、『國山』、『天發神讖碑』、『城隍廟碑』、『三墳記』をそれぞれ百本を臨模した。」「篆体が不備であったので、『説文解字』二十本を手写して、半年にして畢る。」「三代の鐘鼎および秦漢の瓦當碑額を旁捜して、その書勢を縦しままにし、その趣を博くした。……五年たって篆書が完成した。」「漢の八分書を学んだ。『史晨前後碑』、『華山碑』、『白石神君』、『張遷』、『校官』、『孔羨』、『受禪』、『大饗』をそれぞれ五十本を臨書した。三年たって隷書が完成した。」とある。このころに篆書を学び、次いで隷書を集中して学習したとされるが、実際に隷書作品は乾隆５１年（１７８６）まで作品例を見ない。ただし、篆刻から篆書さらに隷書作品と作品の内容が増えていくことは、�ｹ石如の学習段階の過程を知るうえで重要なことである。また、この記載の関連として方朔（１８１７〜？）の『枕經堂金石書畫題跋』巻二には、�ｹ石如雙鈎『石鼓文』を目賭した記載がある。
　従来、包世臣『完白山人傳』によって梅鏐の家に寄宿して朝夕を問わず篆書は五年、隷書は三年の計八年のあいだ学んだことになり、また包世臣『完白山人傳』には「山人、梅氏に過客すること八年、學すでに成る。梅氏の家ますます匱しくして、またとは山人を客とするあたわず。山人すなわちまた前のごとく、草履擔簦して、あまねく名山水あそび、書刻をもって自給せり。」とあるが、
作品例には、乾隆４５年（１７８０）、３８歳。冬に　上に遊び、始めて徐公威（丹徒の人）を知る。徐公威のために、印（印面欠、側款のみ）を刻す。（�ｂR８―５）とあり、
冬に邗上で畢蘭泉と出会い、印を求められるが断わる。（�ｂR９―４）とあり、乾隆４６年（１７８１）、３９歳。８月に畢蘭泉から家蔵舊搨の〈華陽眞逸の正書の『瘞鶴銘』〉を贈られる。廣陵の寒香僧舎において、南郡の畢蘭泉のために、印『意與古會』を刻す。（�ｂR９―４）とあり、
乾隆４８年（１７８３）、４１歳。９月に京口に過客して、友の蘭泉居士（畢蘭泉）のために、蘇髯先生（蘇東坡）の『赤壁賦』の中の八字『江流有聲斷岸千尺』を刻す。（�ｂS１―１）とあり、９月に京口に過客して、梅甫先生からの委嘱により、歐陽子（歐陽脩）の『秋聲賦』を補って、印『新篁補舊竹』を刻す。（�ｂS１―３）とあり、以上のことから梅家への寄宿は継続したものではなったことが判る。

第二期　４４歳から５３歳まで
　４４歳から５３歳までの期間は、篆刻作品の他に書法作品が、篆書・隷書作品があらわれ、草書、行書、そして楷書作品の順にあらわれる。この期間は五体の書体がすべて出揃い、初期の書法完成の時期にあたり、第２期として検討する。
乾隆５１年（１７８６）、44歳。秋に武林の汪氏の也園に過客する。この時、臨『會稽刻石』（篆書）を書く。（�ｂS４―１）があり、歙県（安徽省）で、張惠言と遇う。この時、冊頁（隷書『司馬温公居家雜儀』二十條「文正司馬温……」）を書く。（�ｂS４―２）がある。これらのいずれの記載も�ｹ石如の旅の軌跡であり、梅鏐の家も�ｹ石如の旅の軌跡の一過であることがわかる。包世臣『完白山人傳』の記載と事実とは異なるようである。このことについては、馬國権氏も「�ｹ石如の生涯とその篆刻芸術」（『中国篆刻叢刊』所載　二玄社）において指摘している。

　乾隆５２年（１７８７）、４５歳。穆孝天、許佳瓊『研究資料』には「４月２３日午後６時、父木齋卒す。時に六十有六。」とある。
　李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』には「木齋先生歿す。既に葬すれば、�ｹ石如袱被して浙江省に入る。天臺（浙江省天臺縣）、雁蕩（浙江省樂清縣、平陽縣）に游び新安江に遵い、遍く黄山三十六峰を覽る。」「逆旅の中に金榜と邂逅す。�ｹ石如の書を奇とすれば、館す。時に吾邑の張惠言、なお未だ遇わず。金榜の家に館すれば、一見して�ｹ石如の書に傾倒す。繼いでまた轉じて曹文植に客す。曹文植また書を以てこれを畢沅に介す。」とある。
　包世臣『完白山人傳』には「�ｹ石如、黄山（安徽省）にあそび歙（安徽省歙縣）至り、篆刻を賈肆にひさぐ。武進の編修の張惠言、歙の修撰の金榜の家に教授す。張惠言もとより深く秦篆をきわめ、金榜の器とする所となる。張惠言、�ｹ石如の書を市に見て、帰りて金榜に語りて曰く、〈今日、上蔡（李斯）の眞迹を見るを得る。〉金榜驚きて問ふに、語るに故をもってす。遂に雨を冒して偕に�ｹ石如を市側の荒寺にいたる。金榜即ち禮を備えて�ｹ石如を客とす。」とあり、また「金榜の家廟甚だ壯麗にして、其の楹は皆貞石なり、而して刻聯及び懸額は、金榜の精心冩作なり。蓋し百易して後ちに定まる、謂うに此に能く加ふる莫きなり。�ｹ石如の書を見るに及びて、即ち匠をあつめて其の額をけずる。しかれども石楹すでに豎く、磨治するに便ならざれば、屋をかけ楹をふして、�ｹ石如に請てこれに書す、刻成りて乃ち重建す。其の傾服すること此に至れり。」とある。
　呉育『�ｹ石如傳』には「歙（安徽省歙縣）の金榜まさに家居す。�ｹ石如その書を挾みて門に踵して上謁すれども、見るを得ず。書を市に賣る。張惠言、時になお未第にして、金榜の所に館す。出て�ｹ石如の書を見れば、これを善くす。門者に謂て通す。�ｹ石如、書を能くすと雖も、字を識らず、字體に謬多し。張惠言、爲に六書の旨を討論すれば、�ｹ石如大いに好くす。書を爲して益々放にして、雲行き風止む。」とある。
　以上、李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』・包世臣『完白山人傳』・呉育『�ｹ石如傳』の三者三様の表現を取っているが、簡単にその人物交流を図式すると、
　李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』の場合……
�ｹ石如（逆旅の中）→金榜と邂逅（�ｹ石如の書を奇とすれば）館す。張惠言（�ｹ石如と未だ遇わず）金榜の家に館す。→張惠言（�ｹ石如の書に傾倒す）→�ｹ石如（繼いでまた轉じて）曹文植に客す→�ｹ石如（曹文植また書を以て）畢沅に介す。
　包世臣『完白山人傳』の場合……
�ｹ石如（黄山にあそび歙至り、篆刻を賈肆にひさぐ）→張惠言（歙の修撰の金榜の家）教授す。張惠言（�ｹ石如の書を市に見て、帰りて金榜に語りて曰く、〈今日、上蔡（李斯）の眞迹を見るを得る。〉金榜驚きて問ふに、語るに故をもってす。遂に雨を冒して偕に�ｹ石如を市側の荒寺にいたる。）→金榜（禮を備えて）�ｹ石如を客とす。金榜（傾服すること此に至れり）
　呉育『�ｹ石如傳』の場合……
歙（安徽省歙縣）の金榜（家居）→�ｹ石如（その書を挾みて門に踵して上謁すれども）見るを得ず。→�ｹ石如（書を市に賣る。）→張惠言（時になお未第にして）金榜の所に館す。→張惠言（出て�ｹ石如の書を見れば、これを善くす。）門者に謂て�ｹ石如を通す。（�ｹ生、書を能くすと雖も、字を識らず、字體に謬多し。）→張惠言（爲に六書の旨を討論すれば）�ｹ石如大いに好くす。→�ｹ石如（書を爲して）益々放にして、雲行き風止む。
　文献の成立は呉育『�ｹ石如傳』がもっとも早く、�ｹ石如在世中と思われる嘉慶７年（１８０２）以後であり、次いで包世臣『完白山人傳』の嘉慶１１年（１８０６）、次いで李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』の道光５年（１８２５）以後である。包世臣『完白山人傳』が随分と金榜（１７３５〜１８１４）が�ｹ石如を尊重しているのにたいして、呉育『�ｹ石如傳』の記述では金榜はまったく相手にしていない。これほどの表現に差があって良いものかと思えるほどである。しかしここで重要なのは張惠言の存在であり、包世臣『完白山人傳』では張惠言が金榜に石如の書の優れていることを伝え、李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』では張惠言が石如の書に傾倒し、呉育『�ｹ石如傳』さえも石如の書を認め、さらには文字学を授けたことになっている。三者の評伝に共通する人物は、張惠言（１７６１〜１８０２）であることがわかる。
　李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』の「木齋先生歿す。既に葬すれば、�ｹ石如袱被して浙江省に入る。天臺（浙江省天臺縣）、雁蕩（浙江省樂清縣、平陽縣）に游び新安江に遵い、遍く黄山三十六峰を覽る。」の記載は、葬儀の後ほどなくして旅に出る石如の姿が書かれているが、喪に服することなく各地を遊覧する姿は遊びというよりは、やはり売字・売印のための旅ではなかったのだろうか。人に合わせることができず名家を尋ねても登用されずに次ぎの名家を尋ねて旅に出る�ｹ石如、世渡りの下手でこれといった師に学ぶこと無く官吏の道を閉ざされた�ｹ石如、これが孤高の人と言われたその裏側であろうか。「笈遊道人」という別号も、気ままで優雅な旅路ではなく、生活のために諸国を巡る運命から逃れられない、生活という名の「笈」を背負った偉丈夫の後ろ姿が見え隠れする。

　乾隆５３年（１７８８）、４６歳。包世臣『完白山人傳』には「山人年四十六にして、すなわち某を娶る、數年ならずして沒す、繼いで某を娶る。しかれども山人遊興して衰えず、つねに江淮の間を往來して、書を鬻ぎてもって旅費に給せり。」とある。実際に草書作品に１２月に京口（江蘇省鎭口縣）の樓に登り、畢蘭泉のために立幅（草書「飛甍複閣厭……」）を書く。（��46―２）とあり、包世臣『完白山人傳』の記載を裏付ける一例である。この草書作品は、現在確認できる作品の中でもっとも初期のものである。行書の作品例は翌年の乾隆５４年（１７８９）、４７歳の１２月に瀟灑齋において「大觀亭の西泠女史の題壁ならびに序に和す」の詩を書く。（�ｂS７―１）がある。このころから行書草書の作品例が確認できるが、 制作年を確認できない刻印を除く�ｹ石如作品１３５件にあって行書草書の作品例は、僅かに１７件しかない。日常の書体であるはずの行書草書の作品例としては、極端に少ないことは記憶にとどめる必要がある。
　また篆刻作品に１０月に羅聘（１７３３〜１７９９）のために、漢に倣って印『衆香之祖』を刻す。（�ｂS６―５）とあり、10月に、羅聘の委嘱により印『山中白雲』を刻し、羅兩峯の冩梅と交換する。（�ｂS６―６）とある。石如と同郷であり安徽省歙県の出身である羅聘は有名な画家であり、金農の高弟の一人でもあるが生涯を貧困の中に暮らしたといわれる。石如とのこうした交流は清貧の交とも言うべき佳話である。

　乾隆５４年（１７８９）、４７歳。孫雲桂『完白山人傳』には「曹文敏、もっともこれを重んず。酒酣落墨して、その書を睨みて自贊して曰く〈何か冰（李陽冰）斯（李斯）に讓らんや。〉」とある。
　包世臣『完白山人傳』には「山人、金榜の家に僑居す。金榜遂に山人に従いて篆法を受くること一年。」「金榜、曹文敏に称す。曹文敏、山人に請て四體『千字文』の横巻をなす、字大は徑寸にして、一日して成る。曹文敏嘆絶して、白金五百をととのえて山人のために壽せり。」とある。
　李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』には「繼いでまた轉じて曹文植に客す。曹文植また書を以てこれを畢沅に介す。」とある。
　伝記の成立は孫雲桂『完白山人伝』が乾隆５７年（１７９２）に書かれ、�ｹ石如５０歳にあたり、もっとも信頼が高い。次いで包世臣『完白山人傳』、李兆洛『石如�ｹ君墓誌銘』が書かれるわけだが、包世臣『完白山人傳』がもっとも詳しく、当時は四體『千字文』が存在していたか、または何処かで目賭したものと思われる。また小林斗盦氏は『書品』２５６号（東洋書道協会　１９７７）の「呉煕載　篆書千字文」の解説のなかで「……先年林朗庵先生から、�ｹ完白の四體『千字文』が台湾にあり、百方手を尽くしたがフィリッピンに渡ってしまったと伺った……」とあり、今日も四體『千字文』が存在することは、将来の研究に余地を残す資料として記憶しておきたい。

　乾隆５５年（１７９０）４８歳は、篆書２件、隷書１件、行書３件、楷書１件があり。書作品の制作に先進した時期である。この年は、包世臣『完白山人傳』によれば、曹文敏とともに北京へいった時で劉文清・陸錫熊と交を結び絶賛される。�ｹ石如の面目躍如たる実に華々しい期間で、上述の作品の多さもこのような事情が推察される。この間の詳細は第四章の年譜を参照されたい。
　作品は、いずれも「都門の寓廬」としていることからも�ｹ石如の北京滞在を裏付けている。
・重九後二日（９月１１日）、都門の寓廬において、四屏（篆書『湛方生序』「湛方生序曰……」）を書く。（�ｂS８―１）
・小春（１０月）孟冬（１１月）、都門の寓廬において、儷笙老兄のために、四屏〈四體書（篆書）「周勰字巨勝……」（隷書）「劉慧斐字宣……」（楷書）「周續之字道……」（行書）「祁嘉字孔賓……」〉を書く。（�ｂS８―２）

　乾隆５６年（１７９１）４９歳は、篆書作品２件にとどまり、前年の多作ぶりとはうってかわって少ない。包世臣『完白山人傳』には劉文清の失脚と陸錫熊の急死が書かれ、さらに�ｹ石如が翁方綱によって排斥を受けたことが記されている。このことで北京を追われるように出奔し、また曹文敏によって兵部尚書兩湖總督の畢沅へのとりなしを受けるありさまが書かれている。このことは孫雲桂『完白山人傳』のも書かれ辛壬の間（１７９１〜１７９２）に武昌弇山尚書（畢沅）の幕府で会ったことが書かれており、�ｹ石如が畢沅の幕府に滞在したことを裏付けている。
　作品は、３月に維揚の寒香僧舎において篆書作品を残していることから、北京から戻ったのは乾隆５６年の１月２月の早い時期で、４月以後の作品例がないことから、このころから畢沅の幕府に滞在したことが推察される。
・春末（３月）、四屏（篆書『程子四箴』「程子四箴視……」）を書く。（�ｂS９―１)
・暮春月（３月）、維揚の寒香僧舎において四屏（篆書「南陔孝子相……」）を書く。（�ｂS９―２)

　乾隆５７年（１７９２）５０歳、この年も隷書作品が１点のみで、多忙な年であったのだろうか。
　作品には「登黄鶴樓に登り、畢制府の詩韻に和す。」とあるところから、この年も畢沅の幕府に滞在したことが推察される。
・嘉平（１２月）、龍山樵舎において、立幅（登黄鶴樓に登り、畢制府の詩韻に和す。隷書「磯邊鵠去蘚……」）を書く。（�ｂT０―１）

　乾隆５８年（１７９３）５１歳、この年もまた隷書作品１点、行草書作品１点のみである。包世臣『完白山人傳』には兵部尚書であり兩湖總督の畢沅は鑒賞の名家であるが、�ｹ石如を知らなかった。なぜなら畢沅の幕府に集まる知名士は立派な輿に乗っているのに、�ｹ石如だけが布衣にして徒歩いたから。遠回しに�ｹ石如が相手にされなかったことを述べているが、呉育『�ｹ石如傳』にははっきりと「嘗て巡撫の畢沅の幕府に游ぶ。名を知る所なし。」として�ｹ石如の名前すら知らなかったことを述べている。事実は呉育『�ｹ石如傳』に近いものであったろうことは想像するにかたくない。
　作品は、１２月に畢沅の代りに、漢の『三公山碑』を適撫して對幅（隷書「領迥山幽流……」）を書いているが、二人の関係が伝記資料の通りだとすると�ｹ石如のひとり相撲といったところであろうか。
・長至（１２月）、畢沅（鎭洋の人、字は秋帆）の代りに、漢の『三公山碑』を適撫して、對幅（隷書「領迥山幽流……」）を書く。（�ｂT１―２）

　乾隆５９年（１７９４年）５２歳は、隷書２件、楷書１件とやはり少ない。包世臣『完白山人傳』には、三年滞在にして畢沅の幕府を去る�ｹ石如の別れが書かれている。畢沅は�ｹ石如の老後を思って田畑と屋敷を用意して別れを惜しんだとしている。前述の呉育『�ｹ石如傳』とは全く違った様子が描かれている。これに追随するのが楊沂孫『完白山民傳』である。楊沂孫もやはり餞別と田畑屋敷のことが出てくるが、石如が屋敷を始めて持ったことを記し、さらに畢沅から「鐵研山房」と鑄鏤した鐵研を贈られたことが書かれている。確かに鐵研山房は�ｹ石如の別号だが、実際に作品に「鐵研山房」の記載があるのは嘉慶元年（１７９６年）５４歳の時の楷書作品が最初である。

　乾隆６０年（１７９５）５３歳は、篆書１件、行書２件とやはり少ない。
　作品には「金陵の寓廬」（江蘇省南京市）「邗江」の言葉にあるとおり江蘇地方において活動している。
・秋、江北督學の査映山を黄門に送る。金陵の寓廬において立幅（草書「江樓玉篴暗……」）を書く。（�ｂT３―１）
・秋、邗江において、英麗兄より、冊をもって書を索められる。近作を録して報いる。（�ｂT６―１）

第三期　５４歳から５８歳まで
　嘉慶元年だけは作品数が少ないが、嘉慶２年以後作品数が増加する。
　嘉慶元年（１７９６）５４歳は、篆書１件、楷書１件と作例は少ない。包世臣『完白山人傳』には、この年に名の琰が嘉慶帝の諱と同じため敬避して、字の石如を名とし、字は頑伯としたことが記されている。なおこの年は乾隆帝が崩御したのではなく嘉慶帝に帝位を譲ったのである。
　作品にはじめて「鐡硯山房」の款識が書かれる。
・春王、正月（１月）、鐡硯山房において對幅（楷書「滄海日赤城……」）を書く。（�ｂT４―１）

　嘉慶２年（１７９７）５５歳は、篆刻２件、篆書１件、隷書２件、草書３件、行草書３件、楷書３件と実に多作である。
　作品には、７月に「京江の江深草閣」、９月に「京口の寓廬」とあり、７月から９月にかけて京口（江蘇省鎮口県）に滞在している。
・新秋、秋七月望日（７月１６日）、京江の江深草閣において冊頁（四體書　篆書「怪石長松嶒……」　隷書「少學琴書偶……」　楷書「雪齋清境發……」　草書「擇故山濱水……」）を書く。（�ｂT５―１）
・秋九月（９月）、京口の寓廬において印『心間神旺』を刻す。（��55―３）

　嘉慶３年（１７９８）５６歳は、篆書１件、草書１件と作例は少ない。
　作品には、１０月に「金陵の過客」とあり、このころまた京口（江蘇省鎮口県）に滞在している。１０月１１月の作品に二度「勉堂先生」が出てくるが未詳である。
・秋、邗江において、英麗兄より、冊をもって書を索められる。近作を録して報いる。（�ｂT６―１）
・今冬（１０月）、金陵の過客となり巣湖を過ぎ、笠人畫史と会って勉堂先生の近況を訊ねる。（�ｂT６―１）
・小春後一日（１１月１日）、廿餘年まえに別れた勉堂先生のために對幅（篆書七言「山中避客編……」）を書く。石如は、目病になって、多く作ることができなかった。（�ｂT６―１）

　嘉慶４年（１７９９）５７歳は、篆書２件、隷書１件、行草書１件、楷書１件と多作である。
　作品には、１１月に「韓江の寓廬」「維揚の邸中、僧廬」とあり揚州に滞在したことが分かる。
・孟冬月（11月）、肯園太老先生のために、韓江の寓廬（維揚の邸中、僧廬）において冊頁（朱韓山〈朱憙〉『座右編』數十條。四體書〈篆書「萬緑陰中小……」　隷書「司馬温公云……」　楷書「焚香看書人……」　行草書「躊躇畦苑遊……」〉）を書く。（�ｂT７―２）

　嘉慶５年（１８００）５８歳は、篆書３件、楷書３件、草書１件、行草書１件と多作である。
　作品には、４月に「韓江の寓廬」とあり揚州に滞在したことが分かる。
・清和月（４月）、韓江の寓廬において、五屏（篆書『朱文公四齋銘』　「奠我徳性希……」）を書く。（�ｂT８―３）

第四期　５９歳から６１歳まで
　この期間は、もっとも多作だった最晩年に次いで多作の時期であり、精力的に制作活動に励んでいる。
　嘉慶６年（１８０１）５９歳は、篆書１件、隷書５件、草書１件、楷書２件と多作である。
　作品には、４月に「集賢律院において養痾」とあり、集賢律院は安徽省の�ｹ石如の出身地であり、後に「集賢律院」の題字も書いている。１２月に「廣陵の是亦草堂」とあり揚州に滞在したことが分かる。
・首夏（４月）、集賢律院において養痾し、淑先親字先生のために四屏（四體書　篆書『遊王氏性園作』「隨意出南郭……」　隷書『徳州暑中贈王蓮湖使君』「僕々長安道……」　楷書『登任氏霄漢樓作』「懷袍屬不展……」　草書『題浙江泛月圖』「楚山靜寥廓……」）を書く。（�ｂT９―１）
・嘉平廿四日（１２月２４日）、廣陵の是亦草堂において立幅（隷書『歸求草堂嚴氏所藏大朝鏡銘』「絶照覽心圓……」）を書く。（�ｂT９―２）

　嘉慶７年（１８０２）６０歳は、包世臣『完白山人傳』には、この年「嘉慶七年、包世臣は、鎭江にて石如を識った。石如に従い過ごすこと十餘日」とし、さらに「包世臣をもって能く真に石如の書を知るものとなせり。」包世臣自信の弁である。
　作品は、隷書４件、行書１件、行草書１件がある。２月に「廣陵の是亦草堂」とし、また揚州に滞在したことが分かる。３月は、「燈下展石鼓巻。且読且摸」とし、石鼓文を臨書している。
・孟春（２月）、廣陵の是亦草堂において立幅（行草書『庚申初冬、同人登皖城峻爽樓、晩眺作。』「百尺偕攀豁……」）を書く。（�ｂU０―１）
・春叔（３月末）、立幅（行書『辛酉仲冬晦前二日。夕前風霾。客子多驚以爲夜必雪也。燈下展石鼓巻。且読且摸。感而作此。』「風雪門封此……」）を書く。（�ｂU０―５）
・孟夏月（５月）、横額（拓本　隷書『集賢律院』）を書く。（�ｂU０―２）

　嘉慶８年（１８０３年）６１歳は、包世臣『完白山人傳』には、「揚州にて値えり。石如、太山之遊をなせり。」とし、包世臣と再会している。
　作品は、篆書１件、隷書１件、草書１件がある。秋の隷書作品に「白門之遊」とあり揚州に滞在していることが分かる。このことは包世臣の記述と一致する。
・秋、寄蓮莊四兄親家のために四屏（隷書『有白門之遊。適大雷令師茘扉明府。重�@望江、停舟過僧廬、訪余。清話半日。越旬舟中、作此。』「秋來漸次起……」を書く。（�ｂU１―３）

第五期―最晩年　６２歳から６３歳まで
　嘉慶９年（１８０４）６２歳は、包世臣『完白山人傳』に詳しく、「秋に山東より常州に至り、揚州を過ぎたが入城しなかった。１１月末、石如が家書を得て里に帰ることを促された。そこで揚州を回り包世臣を天心墩に訪ねたが包世臣たまたま東臺にいって会えなかった。石如、包世臣を待って十二月初八に至なったが帰ってこないので、石如里に帰った。こののちは出遊することがなかった。」としている。
　作品は、篆刻１件、篆書７件、隷書11件、草書３件、行書２件、行草書１件、楷書２件と多作である。この年は４月に「韓江の寓廬」、夏に「興嚴佛廬」、８月に「任城の碧山書屋」、１１月に「澄江の寓廬」、１２月に「自東遊還、過京口」と各地を巡り、このあとは包世臣『完白山人傳』の記載を裏付けている。
・麦秋（４月）、韓江の寓廬において立幅（隷書『古銘』「戰々慄々日……」）を書く。（�ｂU２―１）
・夏、對幅（草書五言『寓興嚴佛廬。遇靈隱見初禪友。行游於此、往來旬月。見其行、持脩潔。頗志於書學、有永禪師風。因樂與之遊。今將歸虎林。書此十字、以贈其行。』「海爲龍世界……」）を書く。（�ｂU２―５）
・秋中節（８月１５日）、後甫五兄のために、任城の碧山書屋において、對幅（隷書「滄海日赤城……」）を書く。（�ｂU２―６）
・長至（１１月中）、海門髯翁のために、澄江の寓廬に過宿して、對幅（篆書四言「龍跳天門虎……」）を書いて贈る。観書したものに祝貳璇、夏循院、祝之常がいた。（�ｂU２―８）
・冬、岸夫竹書大兄のために、立幅（行書『自東遊還、過京口。於袁岸夫座上。喜晤胡黄海、即歩其韻。』「握手更欣逢……」）を書いて贈る。（�ｂU２―１１）

　嘉慶１０年（１８０５）６３歳は、包世臣『完白山人傳』、方履籛　『�ｹ完白先生墓表』とも�ｹ石如の死を記しているが卒年に異同がある。包世臣は６３歳とし、方履籛は６７歳としている。
・石如、十月家に卒す、年六十有三歳。（包世臣『完白山人傳』）
・先生（�ｹ石如）、嘉慶十年に卒す。年六十有七。（方履籛『�ｹ完白先生墓表』）
　作品は、篆書３件、隷書４件、古文１件と臨終の間際まで精力的に書作に励んだ。２月には「雷陽の書齋」、６月には「皖口の裁雲補納之廬」とあり、前述の包世臣『完白山人傳』の「こののちは出遊することがなかった。」と一致しない。亡くなる直前まで「出遊」していたことは、作品の款識により確認できる。
・華朝（２月１５日）、雷陽の書齋の小停雲館において、六屏（篆書　程伊川『非禮勿言箴』「伊川先生非……」を書く。（�ｂU３―１）
・六月六日（６月６日）、皖口の裁雲補納之廬の紫竹山林において八屏（拓本　隷書『張氏東銘』「横渠張先生……」）を敬書する。（�ｂU３―４）



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